自営資源の継承による上昇移動

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※以下は1998年5月に『民団新聞』に連載した記事を再掲したものです。

 二十?三十歳代の比較的若い世代の在日韓国人の場合、昇進や転職にあたって親の社会階層にともなう資源を利用する確率が、日本人よりも高いというデータがある。では、「親の社会階層にともなう資源」とは、いったい何であろうか。周知のとおり、在日韓国人の多くが自営業をなりわいとしている。自営業をどう定義するかにもよるが、その割合は少なく見積もっても半数をくだらない。つまり、「親の社会階層にともなう資源」とは、家業にかかわる財産、人間関係、知識や経験であることが推察できよう。そこで今回は、「自営」かどうかという観点を導入しながら、親子間でどのように職業的地位が引き継がれているのかについて紹介する。
 対数線形モデルという手法によって、「民族」「父親の職業」「本人の職業」の関連を分析したところ、いくつかの点において、親子間の職業の関係が日本人と在日韓国人とで違っていることが明らかになった。以下、「上昇移動」と「下降移動」に分けて話を進めよう。なお、上昇移動とは、子が親よりも高い職業的地位を達成することであり、逆に下降移動とは、子の地位が親の地位よりも低くなることを言う。また、職業分類は連載第三回の表2の通りである。
 まず、上昇移動で民族間に差があるパターンは、(一)親が「自営」で子が「専管」、(二)親が「雇B」で子が「自営」、(三)親が「雇B」で子が「雇W」である。一と二は在日韓国人の確率のほうが高く、三は日本人の確率のほうが高い。具体的な典型例をあげて説明するなら、一の場合、小さな焼き肉屋を経営していた父親の子どもが、従業員規模三十名を越える焼き肉チェーン店に発展させたという事例があてはまる。二の場合、旋盤工として工場に雇われて働いていた父親の子どもが、自分で鉄工所をひらいたという事例があてはまる。いずれの場合も、父世代の職業に直接かかわる資源を引き継ぎつつ、それを「自営」に関連付けて発展させているケースであり、それが、在日韓国人の典型的な世代間上昇移動のモデルであると言っていいだろう。
 三は、たとえば工場労働者や道路工の子どもがサラリーマンや販売店員になるようなケースである。このパターンにおいて日本人よりも在日韓国人のほうが少ない理由は、近年まで日本企業が激しい民族差別をおこなっていたため、一般従業者としての就職の道が閉ざされていたことによるものと思われる。
 一方、下降移動で民族間に差があるのは、(四)親が「雇W」で子が「雇B」というパターンのみであり、これは在日韓国人の確率のほうが高い。具体例を挙げるなら、親が民団などの民族団体や商銀などの民族金融機関の職員で、子が工場労働者という事例があてはまる。このような下降移動が起こる原因としては、「雇W」の子がなんらかの理由(能力不足や就職差別など)によって雇Wに就けない場合、親が自営業でないため「自営」にともなう資源が利用できず、子は雇Bから地位達成を始めなければならなくなる、という仮説が考えられる。この検証作業は今後の課題だが、もし仮説通りであれば、在日韓国人の唯一の世代間上昇移動のプロセスは「自営」の資源継承にともなうものであり、それを外れた場合、たとえ父の職業的地位が高くとも、子の職業的地位は大きく転落する可能性が高いという皮肉な事態を意味することになる。
 前回は「在日韓国人と日本人の間で職業的な地位に差異がみられないのは、不平等がないからではなく、在日韓国人が不平等を克服しているからだ」ということを明らかにした。そこで今回、「自営」に注目しながらその克服プロセスの一端を紹介したわけだが、平等な社会に向かう可能性に満ち溢れたプロセスというより、僅かな可能性を最大限に生かさざるをえない非常に限定されたプロセスであるように思われる。こうした状態が次世代にまで引き継がれることのないよう、われわれ同胞一人一人が、引き続き職業選択の可能性を拡大する努力を求められていよう。
 さて、ここまでの連載では、過去から現在にいたる不平等構造(社会階層)について調査結果を報告してきた。だが、調査名(「在日韓国人の社会成層と社会意識全国調査」)を見ても分かる通り、本調査のテーマは社会階層だけではない。そこで最終回となる次回は、在日韓国人の?生き方?の問題にまで射程を広げて、いわば同胞社会の未来をうらなうための材料を提示したい。

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このページは、mskimが2018年4月17日 11:39に書いたブログ記事です。

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