学歴メリットの不在と互助的ネットワーク

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※以下は1998年5月に『民団新聞』に連載した記事を再掲したものです。

 前回は在日韓国人の職業について二つの問題提起を行った。「なぜ一定の年齢以下では在日韓国人の職業的地位は低いのか?」「在日韓国人はどのようにして一定の年齢までに日本人と同等の職業的地位を達成しているのか?」である。そこで今回は、第二回「教育達成」と同じ手法を使ってこの問題を明らかにしていくことにしよう。
 表1は、生まれ育った家庭の社会階層や達成した教育程度が、在日韓国人がどれだけ"望ましい"初職に就けるかについてどのように影響を持つのか、年齢層別、民族別に示したものである。この表からは、三つの特徴を読み取ることができる。
 第一の特徴は、どの年齢層をみても、教育達成による効果は在日韓国人のほうが一貫して低いことである。簡単に言いなおすと、同じ階層の家庭に生まれ育ち、同じ学歴を達成したとしても、在日韓国人は日本人と同じほどには学歴のメリットを生かすことができておらず、その傾向は世代をへても基本的に変化していない、ということである。
 第二の特徴は、どの年齢層のR^2(親の社会階層や教育達成の説明力)をみても、在日韓国人より日本人の値のほうが高いことである。第三回で述べたように、日本人と在日韓国人では職業威信の平均値に有意な差はない。すると、在日韓国人が"より望ましい"初職に就業するには、日本人より親の社会階層や教育達成以外の手段を用いているということになる。
 第三の特徴としては、六〇歳代の在日韓国人では、出身階層による効果がまったくといってよいほど存在しないことである。世代間でこれほど完全な地位の断絶がみられるのは異例のことだが、このようなことが生じた理由は言うまでもなく、日本への移住や強制連行によって、出身階層にともなうさまざまな資源を利用することができなくなったためであろう。第三点目の特徴についてここではこれ以上触れないことにする。
 第一、第二の特徴を総合すると、在日韓国人は戦後一貫して、教育達成による職業的地位形成において民族的障壁に直面しつづけており、それを補うために、出身階層とそれ以外の何らかの手段をもちいて初職に就業してきた、ということになろう。では、?教育達成でも出身階層でもない、それ以外の手段とはなにか?ということが問題になる。
 そこで、つぎに、初職に就業するにあたってどのような手段が有効であったかにたいする回答をみてみよう。
 表2をみると、「家族・親類」「家族・親類の知り合い」「友人・知人」をあわせた、インフォーマルな人間関係によって就業情報をえたものが、有効回答者のほぼ七割近くにまでおよんでいる。
 また、「家族・親類」「家族・親類の知り合い」「友人・知人」のいずれかを回答した人に、その紹介者の民族をたずねたところ、八割以上が韓朝鮮人であるという回答をえた。これらの圧倒的な比率の高さをみれば、?教育達成でも出身階層でもない、それ以外の手段とはなにか?という問いを追究するうえで、もはやこれ以上の分析は必要あるまい。それはすなわち、同胞集団内のインフォーマルな互助的ネットワークにほかならない。在日韓国人は、教育達成による地位形成において民族的障壁に直面しつづけてきたため、それを補うために、出身階層にともなう資源と、民族集団内のインフォーマルな互助的ネットワークをもちいて、ようやく日本人と同等の地位を達成してきたのである。 前回述べたとおり、在日韓国人と日本人の職業的地位は、一般の通念とは異なり、じつはさほど大きな格差を生じていない。むしろ、両者の社会的地位がきわめて近似していることこそ、本調査において発見された事実であると言ってよい。しかしながら、その事実をふまえたうえで子細にデータを検討してみると、平均値レベルでは明らかにならなかったさまざまな潜在的不平等が浮き彫りになった。在日韓国人と日本人の間で職業的な地位に差異がみられなかったのは、不平等がないからではなく、在日韓国人がその不平等を克服しているからなのである。民族による理不尽な不平等構造を糾弾するよりも(むろんそれが重要であることは論をまたない)、むしろさまざまな障壁を乗り越えて、結果として日本人と同等かそれ以上の社会的地位を達成してきた在日韓国人の努力と工夫に満ちた職業生活史こそ特筆されるべきであろう。
 さて、次回は「自営」かどうかという観点を導入しながら、前回の二番目の問題提起(「自営」からその他の従業形態に転出するさいに、民族的な障壁があるのか)に答えていく予定である。

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このページは、mskimが2018年4月17日 11:38に書いたブログ記事です。

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