民族間の職業的不平等とは何か

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※以下は1998年5月に『民団新聞』に連載した記事を再掲したものです。

 前回は在日韓国人の社会階層を論じる手始めとして?学歴?を取り上げた。しかし、近代社会においてもっとも重要な社会的地位とみなされているのは?職業?である。学歴が社会的地位の一つとして重視されるのは、それが職業的地位と密接に結びついているからに他ならない。在日韓国人の社会階層を解読するためには、第一に職業的地位に注目しなければならないのである。そこで、今回は「民族間の職業的不平等とは何か」について二つの問題提起を行う。
 一口に職業と言っても、社会的地位としてみたときその内実は多岐にわたる。そういった多様な材料を一つの職業的地位の尺度に統合して検討することもあるが、ここではその代わりに「職業威信」を用いておく。人々は、ある職業を他の職業よりも尊重し、価値あるものとみなす。職業そのものに貴賎はなくとも、人々の職業にたいする評価には序列がある。そこに、職業の格付けが生じる。すべての職業についてこの格付けを偏差値のかたちであらわしたものを、職業威信尺度という。
 さて、既出のSSM調査によると、日本人の職業威信の平均値は四七・三であり、在日韓国人を対象にした本調査の平均値は四八・〇である。わずかに本調査の平均値のほうが上回っているが、統計学的には誤差の範囲内におさまっている。すなわち、職業威信からみると、在日韓国人は日本人と同程度の地位達成をなしとげているということになる。従来、在日韓国人が日本人よりも不利な立場に置かれているということが自明のように語られてきた。しかしながら、日本の職業的地位の指標としてもっとも重要な職業威信において、不平等はみられないのである。
 このことを、年齢の変化をおって確認してみよう。図1は、初めて仕事に就いた年齢から調査時の年齢までの職業威信を算出し、各年齢ごとにその平均値をならべたものである。異なる年齢層を一つの図に押し込めてしまっているため、この図から精確なトレンドを導き出すことはできないが、「在日韓国人は、青少年期には日本人より不利な立場に置かれてきたが、一定の年齢に達するまでに何らかの手段によって日本人と同等の地位達成をなしとげている」というおおまかなストーリーが浮かび上がってこよう。
 なぜ一定の年齢以下では在日韓国人の職業的地位は低いのか? そして、在日韓国人はどのようにして一定の年齢までに日本人と同等の職業的地位を達成しているのか? これが第一の問題提起である。この問題の追究は次回に行うこととし、今回はもう一つ別の観点から職業的な地位の民族間における違いを指摘しておく。
 前述したとおり、職業的な地位の指標はなにも職業威信のみではない。代表的なものをあげれば、従業先の規模(会社の大きさ)、従業上の地位(経営者か一般従業者かなど)、仕事の内容(どれほど責任や知識を必要とする仕事か)などがある。表2はこれらを複合的に組み合わせた職業分類であり、それに実際のデータを当てはめたものが表3である。
 表3において特徴的なことは、(一)在日韓国人のなかで自営業従事者が半数を超えており、比率において日本人の二倍以上におよぶこと、(二)逆に一般企業に雇用されているホワイトカラーは日本人の約半数、比率にして一割強でしかないこと、(三)在日韓国人の農林漁業従事者は非常にまれであること、である。農業については別途論じる必要があるが、一、二を端的にまとめるならば、在日韓国人と日本人の職業的な地位の違いは「自営」の比率に還元される、ということである。
 とはいえ、これは拙稿を含めすでに先行の諸研究によって明らかにされていることであり、本調査で新たに発見された事実というわけではない。そもそも、多くの資源をもたなかった在日一世たちが、はげしい雇用差別を回避しながら経済生活を安定させるために、手ずから事業をおこし、自営業を中心とする在日韓朝鮮人経済をつくりあげてきたということは周知の歴史的事実である。民族的なマイノリティが雇用差別によって自営業に追いやられるということは、なにも在日韓朝鮮人にかぎらず、世界的に広くみられる事象でもある。問題は、「自営」の比率が高いことによって、在日韓国人が職業的地位を達成するうえでどのような影響があるのかということである。言い換えると、「自営」からその他の従業形態に転出するさいに、民族的な障壁があるのかどうか、ということだ。これが第二の問題提起である。
 次回はまず、第一の問題提起のほうから詳しく論じる予定である。

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このページは、mskimが2018年4月17日 11:36に書いたブログ記事です。

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