在日韓国人の調査研究

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※以下は1998年5月に『民団新聞』に連載した記事を再掲したものです。

 ある民族運動家から興味深い話を聞いたことがある。在日同胞の生涯賃金は日本人の半分にしかならない、というものだ。就職差別で賃労働から疎外され、いざ就職しても賃金差別を受ける。自営業をおこそうとすれば有利な店舗物件を貸してもらえず、企業経営においてもさまざまな不利益を被る。社会福祉においても差別されつづけてきたうえ、日本人に比べ不利な支出をせざるをえないことも多い。この圧倒的な不平等こそ民族差別だ、というわけである。
 もちろん、この?半分?という試算に根拠はない。また、民族差別を経済的不利益だけにわい小化してしまうことにも問題はある。しかし、かりに個々の場面の不平等や、差別によって被る不利益はささいなものであっても、すべての不平等を一つの尺度(この場合は生涯賃金)にまとめてみると大きな問題として浮かび上がってくる、という主張は重要だと思われる。
 社会学では、不平等を総合的に測定する尺度についていくつかの案を提示してきた。そのうち、質、量ともにもっとも研究が進んでいるのが、富・威信・権力・知識などの社会的資源の過多に注目する「社会的地位」である。なお、いわゆる「社会階層」とは、序列づけられた社会的地位のハイアラーキーのことである。
 社会階層については研究が進んでいると書いたが、残念ながら在日同胞の社会階層についての研究は非常に少ない。とりわけ、全国規模での調査研究は皆無に近い。その理由は、筆者の見るところ大きく分けて二つあり、一つは日本の社会科学研究者が伝統的に民族にかかわるテーマを忌避してきたこと、もう一つは調査をおこなうにも調査対象者名簿の入手が困難だったこと、である。
 前者の理由を端的に示す話がある。日本では一九五五年から「社会階層と社会移動に関する全国調査」(以後、SSM調査)と題する調査が十年間隔で継続されているが、これについてある研究者が昨年のアメリカ社会学会で語ったことである。「日本では民族的少数者についての調査がきわめて少ない。SSM調査の主幹にその理由を尋ねたところ、答えは『在日韓国・朝鮮人の人口は日本社会の1%未満であり、統計的に無視できる数値である』ということであった。」もちろん、満場の乾いた笑いを誘っていた。
 ともかく、在日同胞の社会階層については独自の調査がきわめて少ない。結果として、この分野の研究は、朴在一氏の先駆的な業績(『在日朝鮮人に関する綜合調査研究』新紀元社、一九五七年)に代表されるように、官庁統計などの二次データを用いて間接的に全体像をつかむという作業段階にとどまってきた。
 しかしながら、一九九三年に在日韓国青年会が筆者らと共同で実施した「在日韓国人青年意識調査」を皮切りに、戸別訪問では同胞の実状をとらえきれなくなっているとの認識をもつ民族団体が、積極的に調査に乗りだす気運が高まっているように思われる。筆者らが在日韓国青年商工人連合会を母体としておこなった「在日韓国人の社会成層と社会意識全国調査」(以下、本調査)もその一つである。
 本調査の母集団は「満二十歳以上で日本に定住している韓国籍の男性」。すなわち成人の在日韓国人男性である(以下、「在日韓国人」とはこの調査の母集団のことを指す)。在日本大韓民国民団が保有する韓国国民登録台帳から等間隔抽出法によって調査対象者を選出した。調査期間は一九九五年二月十八日から一九九六年十月三一日。戸別訪問面接法により実施され、一二八〇名の調査対象者から八九九の有効票(回収率70・2%)が回収された。
 本調査の第一のテーマは、まさしく在日韓国人の社会階層である。?在日同胞は現在の社会的地位を達成するうえでどのような不平等に見舞われてきたのか??不平等は拡大しているのか、縮小しているのか?――そういった疑問に答えるため、本調査には社会的地位を代表する広範なデータが収集されている。
 たとえば、職業については、はじめて職業に就いてから現在にいたるまで、事業の種類、仕事の内容、企業の規模、役職、転職の有無などといった子細な情報を切れ目なくたずねている。在日男性の職業史としてみても類例のない情報量だが、他に、就業の重要な条件となる出身家庭の背景や学歴、現在の経済状態を代表する収入や金融資産など、多くの項目が含まれる。
 次回より、本調査の分析結果について概要を紹介していくことにしよう。

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このページは、mskimが2018年4月17日 11:30に書いたブログ記事です。

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