高校生を人質外交の道具にすることは許されない

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 朝鮮学校の「高校無償化」については、第三者機関による周到な検討を経て、いったん適用が決まっていたにもかかわらず、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)による韓国砲撃へのリアクションとして、政府が審査手続きを停止している状態が続いています。

 朝鮮学校生徒保護者からは、先月、文部科学省に対して行政不服審査法に基づく異議申し立てがなされていましたが、このほど文部科学省から回答の通知が送付されました。内容は以下の通りです(参考:朝鮮学校無償化問題FAQ)。

平成23年1月17日付をもって、あなたから提出のあった公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律施行規則第一条第一項第2号ハの規定に基づく指定に関する規定第14条の規定に基づく申請については、平成22年11月29日の北朝鮮による砲撃が、我国を含む北東アジア地域全体の平和と安全を損なうものであり、政府を挙げて情報収集に努めるとともに、不測の事態に備え、万全の態勢を整えていく必要があることに鑑み、当該指定手続きを一旦停止しているものです。(下線は引用者)

 つまり、朝鮮学校に「高校無償化」の適用手続きを停止している理由は外交上の判断だというのが政府の回答だったわけです。

 本ブログでは、政府が外交目的で在日コリアンを抑圧してきた歴史について何度か言及しました(例えば「人権侵害しか切れる外交カードがないとは、どんなならず者国家だ?」)。この主張の妥当性を巡っては意見もあったようです(例えばこちら)。しかし、外交のために理不尽かつ無意味に在日コリアンが抑圧されてきたということは、比喩でもなければ、私個人の思いこみでもなく、単に愚かしい事実にすぎないということを、政府自ら上記の回答によって示したわけです。

 前回の記事(「日系アメリカ人の強制収容所問題と朝鮮学校の無償化除外問題の相似について」)のテーマにも同じことが言えます。政府が海の向こうの軍事衝突を、国内のマイノリティへの人権侵害へとリンクさせた直後に、複数の論者が一斉に「日系人の強制収容所問題を思わせる」と言及しています(例1例2例3例4)。これは、政府が在日朝鮮人の子どもたちを「敵性外国人」扱いし、深刻な人権侵害に及ぼうとしている事実を各方面に鮮明に印象付けたことを示唆しています。

 ところで、国内に居住する外国人の人権侵害とバーターで外交上の利益を達成しようとすることを、俗に「人質外交」といいます。外交目的で朝鮮学校の審査手続きが停止されたのは、「人質外交」の典型事例ですね。ネットで数分検索するだけで、「人質外交」がどれだけ卑劣な人権侵害として忌み嫌われているかわかるはずです。しかも、今回は「人質」となっているのが高校生なのです。国家による破廉恥行為だとそしられても、容易に反論はできないでしょう。

 しかし、これほど愚劣で違法性の高い人権侵害に対して、日本社会はいささか冷淡であるように、ぼくには感じられます。

 丸一年にわたって、朝鮮学校の生徒たちはさまざまな負担に耐えてきました。「お前たちの学校などいらない」という悪意に満ちたメタメッセージを政府から受け続けました。しかし、日本社会の多数派の善意を信じて、毎週のように署名活動をやったりもしました。その信頼に対して、こんな理不尽な仕打ちで失望させたまま卒業させてしまっていいのでしょうか。

 まずは情報を収集したいということであれば、上記の 朝鮮学校無償化問題FAQ がきっと役に立つでしょう。そのうえで、もしこの問題の改善に何か寄与したいとお思いになったら、例えば、「不正義を許さない」という声を首相官邸に届けるのもいいでしょう。あるいは、「教育を外交問題によってゆがめられてはならない、がんばって筋を通せ」という主張を文部科学省に伝えるのもいいと思います。

 とにかく、残された時間は、もう多くはないのです。一人ひとりが、この不正義に加担せず、それぞれにできることを何か一つでも進めましょう。このまま時間切れになれば、日本社会は取り返しのつかないものを失ってしまうかもしれません。ニーメラーの警句は今ここでも重要な意味を持っています。

 

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このページは、mskimが2011年2月 6日 21:44に書いたブログ記事です。

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