このところ学術的な観点からのエントリーが続いていたけれども、この問題を批判しないわけにはいきません。あまりにもネガティブな感情が強すぎて、これまでどうしても冷静に論じることができませんでしたが、そろそろ執筆する準備ができたように思います。
何の話かといえば、高校教育の実質無償化政策から朝鮮学校を除外する案について、大阪府の橋下徹知事のレイシスト発言っぷりが際立っています。今回のエントリーでは、彼の発言の何が「問題」なのか、下記のテーマに沿って論じていきます。
- 他のどこでもない大阪府の知事であることにより発生する歴史問題
- 法律家でありながら超法的政治手法を利用するポピュリズム問題
- 以上を報道しない日本マスメディアのレイシズム問題
1. 大阪の歴史問題
この問題については、すでに優れたエントリーが書かれています。日朝国交「正常化」と植民地支配責任というブログの最新記事、橋下府知事を朝鮮学校に入れるべきではない――朝鮮学校と高校「無償化」問題6です。まずはお読みいただきたい。
リンク先のエントリーで述べられているのは、「阪神教育闘争」として知られる事件です。平和的デモに対して警官が発砲し、16歳の死者まで出したこと一つをとっても、戦後日本の民主主義の歴史に残る最悪の汚点の一つといってよいでしょう。
大阪府は、在日コリアンの民族学校を弾圧した歴史的事実に対して、倫理的な責めを負うべき立場です。橋下知事はこの事件を知っていたはずですし、仮に知らなかったとしても、朝鮮学校を無償化対象から除外する議論が始まったときには知ったはずです。にもかかわらず、橋下知事には一切の反省がないどころか、逆に弾圧当時と同様のロジックで朝鮮学校を追い込もうとしている。知事の権力をもって、在日の子どもたちに踏み絵を強要しようとしている。
橋下知事には、民主主義を守ろうという精神的基盤が欠落しているとしか考えようがありません。
2. ポピュリスト問題
純粋な法律論からいえば、朝鮮学校だけを無償化対象から除外するのは不可能に近いはずです。ぼくが素人法律論を振りかざすより、日本弁護士連合会「高校無償化法案の対象学校に関する会長声明」から一部引用するほうが早いでしょう。
朝鮮学校に通う子どもたちが本法案の対象外とされ、高等学校、専修学校、インターナショナル・スクール、中華学校等の生徒と異なる不利益な取扱いを受けることは、中等教育や民族教育を受ける権利にかかわる法の下の平等(憲法第14条)に反するおそれが高く、さらには、国際人権(自由権・社会権)規約、人種差別撤廃条約、子どもの権利条約が禁止する差別にあたるものであって、この差別を正当化する根拠はない。
これらの法律の壁を、橋下知事は「不法国家の北朝鮮と結びついている朝鮮総連と関係があるなら、税金は投入できない」というロジックで強引に突破しようとしているわけですが、法律論としては何重にもムリのある話です。知事もそのことはおそらく承知で、だからこそ、北朝鮮と朝鮮総連を一体的に暴力団やナチスにたとえたりしながら、このロジックを政治的に正当化しようとしているわけです。悪しきポピュリズムの典型的な手口。
この点についても、Arisanのノートに、「大阪府知事はナチスと同じ」という優れたエントリーがすでに書かれています。ぜひお読みください。
国内の少数者を恫喝し、繰り返し傷つけることで大衆的人気の獲得を図っているという点では、まさに橋下徹とい政治家こそ、ナチスとヒトラーの名にふさわしいではないか?
この一文に端的に表現されていますが、ナショナリズムと結託したポピュリズムが排外主義に走るとき、きわめて危険な政体が生まれます。ナチスはその代表格。
くどいですが、橋下知事には、民主主義を守ろうという精神的基盤が欠落しているとしか考えようがありません。
3. マスメディアのレイシズム問題
ところで、「ナショナリズムと結託したポピュリズム」の危険性に絡んで、よくヨーロッパの「極右政党」や、ハイダー、ル・ペン、グリフィンといった「極右党首」たちの言動が否定的に報じられてきました。
日本のマスメディアが「極右」といってこれらを批判する欺瞞については、もうずいぶん言い尽くされている感もありますが(例えば森達也・森巣博『ご臨終メディア』集英社)、それでも一向に事態の改善が見られない以上、何度でも繰り返し批判されるべきことでしょう。
橋下知事の一連の発言については、各紙とも論評を加えずに淡々と紹介するスタンスに徹しているようです。人気政治家の発言に賛否を表明して攻撃を引き受けるのは怖いということなのでしょう。言論の責任を回避する姿勢は、まさしくご臨終メディア。しかし、不法な人権侵害をポピュリズムの手法によって正当化しようとしている権力者がいるとき、それに対抗するのはマスメディアのもっとも重要な役割ではないでしょうか。
マスメディアが批判の届かない安全な場所に逃げている間に、朝鮮学校に通う子どもたちは、知事の発言に誘発されたヘイトクライムの犠牲になるかもしれない。杞憂ではありません。過去に何度も実際に起こったことです。にもかかわらず、マスメディアは、子どもたちを責任回避の盾にしながら、逃げている。
なぜこのような事態が生じているかといえば、ようするに、マスメディアに関わる人々が、「知事の発言にも一理ある、だから朝鮮人の子ども達が犠牲になっても仕方がない」、という発想を否定していないためでしょう。なんたるレイシストぶりか。
日本のマスメディアには、民主主義を守ろうという精神的基盤が欠落しているとしか考えようがありません。

ほぼ同感です。
橋下氏の人権に対する洞察が欠如したパフォーマンスにはヒューマニティが感じられません。
民主政治の進化に逆行するような人心の対立要素を無用に煽り立て、政索を商品化したような政治手法を展開することの危険性を感じております。
次第に形成される無機質的な反目社会、表層的な合理社会とでも称したくなる思いです。
確かにメディア人の評価も金太郎飴のごときヨイショに終始していて実に不甲斐ない限りです。
>>橋下知事には、民主主義を守ろうという精神的基盤が欠落しているとしか考えようがありません。
くわしくは知りませんが、朝鮮学校では独裁者を賞賛するような教育が行われているという話も聞きます。だとすると、このような学校に補助金を入れるということは、民主主義を守ることに反する行為となるでしょう。民主主義を守ることが重要と主張するなら、橋本知事の行為に賛同すべきといえます。
狭い視野の人間が恐ろしく多いと思います。
確かに、拉致問題は重い。
それよりも、過去の民族差別の歴史に関わる民族教育を否定する視点、歪曲をしようとする姿勢。
異なる民族や考え方の違う者と共生するのが,本当の民主主義だと言うことがなぜわからないのでしょうか。だれかがいった、きれい事の民主主義にだまされて、すべての異端者を受け入れる真の民主主義が日本では育たないのは当然ですね。
私は、教員ですが、公務員を的にすることでどれだけの支持者から喜ばれるか、計算しているようにも思いました。
今回の件も、無知な府民を扇動して、そう思い込ませてしまうとしか見えない。あおってあおって、結果として、支持者が増えるというのは本当にファシズムです。
> dog308さん
> それよりも、過去の民族差別の歴史に関わる民族教育を否定する視点、歪曲をしようとする姿勢。
私は朝鮮学校に対する無料化除外に反対ではありますが、そうやって過去問題(植民地支配や戦後の在日差別)を持ち出して拉致と並べることは全く以て逆効果です。
> 無知な府民を扇動して
こういう発言も同様です。あなたは「無知」じゃないんですよね?無知でないなら橋下さん以上に「計算した」発言が求められると思うんですが。