連鎖 #1

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 セクハラ問題にせよ差別問題にせよ、多くの人権問題は、事象そのものよりも、事象に付帯して続発する様々なできごとが事態を面倒なものにします。言い換えると、人権問題は、起こったときより、起こった後のほうが問題になりやすいのですね。

 たとえば、以下の事例を考えて見ましょう。

(1)まず、「差別発言」が起こります。
 東京出身のAさんが、同僚でアイヌ出身のBさんに対して、「きみはクマさんみたい」と発言しました。Aさんにはまったく悪気はなく、クマさんのように愛嬌があってかわいらしい、ぐらいの意味で好意的な発言をしたつもりでした。

(2)ところが、アイヌは侮蔑的な意味をこめて「クマ」と呼ばれて差別されることがあります。
 そこでBさんは、(Aさんの発言意図がどうであれ)、「アイヌに向かって『クマ』と呼ぶのは差別的な意味合いがあり、不愉快だ」と抗議しました。

(3)Aさんとしては、好意的な発言に対して「差別」だと抗議されたことに驚きました。
 そして、「傷つけるつもりなんかなかった。だから差別なんかじゃない。クマは愛らしいじゃないか。クマと呼んで何が悪いのか。被害妄想はいいかげんにしてくれ」と逆ギレします。

(4)BさんはAさんの態度に傷つきます。
 最初は、Aさんに悪気があったかどうか分からないけど、できればよりよく理解してほしいという思いから、勇気を振り絞って「不愉快だ」と真剣に伝えたのに、このAさんの発言と態度からは「理解しよう」という気持ちはうかがえません。それどころか、被害妄想だと攻撃される始末です。傷ついた後、たいへん強い憤りを感じます。

(5)Bさんは上司に調停を依頼します。
 そこでBさんは、第三者として、AさんとBさんが働いている職場の上司に、内々に相談します。

(6)上司は事実がなかったかのように振舞います。
 上司としては、仕事と直接関係のない面倒な揉め事を嫌う人でした。Bさんから相談を受けた後、「ぼくからAさんをたしなめてるから、Bさんも事を荒立てないように」と話したにもかかわらず、Aさんには何も話をせず、ただ放置しただけでした。

(7)Bさんは上司に抗議しますが聞き入れられず、それどころか4月に配置換えされる対象になっていることが分かりました。Aさんはそのまま異動しないにもかかわらず。

(8)Bさんは、とうとう、Aさん、上司、そして会社の3社を民事で訴えることにしました。

 さて、このケースですが、(3)の段階でAさんが、「そうなんだ、知らなかったとはいえごめんなさい」とたった一言謝ればすむ話なのですね。いや、謝るどころか、「え、そうなの。知らなかった。よかったら、もう少し詳しく教えてくれない?」と前向きに理解しようとする姿勢を示すだけでも、たぶん大丈夫だと思います。

 ところが、Aさんは「差別」の一言に過剰反応してしまって、大悪党呼ばわりされたような気持ちになり、相手の気持ちも考えずに攻撃的な対応をしてしまいました。そして、いくところまでいってしまうことになったわけです。

 Bさんとしても、(1)の発言そのものに対して深く傷ついたわけではありません。むしろ、(3)や(6)〜(7)の対応によって、期待が裏切られ、信頼を喪失し、人間関係と職場に絶望し、そして、恨むようになっていったのです。

 事後の対応がいかに重要かわかりますね。

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このページは、mskimが2008年1月23日 12:46に書いたブログ記事です。

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